アンチスタンプ&アンチ絵文字
宇川 僕はLINEってやってないんだけど、LINE以降って文字を介さず、みんなグラフィックアイコンのみのやりとりで意思の疎通を図ったりしていますよね!?
佐保 そうですね。スタンプを使ったり。
宇川 スタンプ同士の意識交流って言語を越えたところにあるじゃないですか。喜怒哀楽すべてスタンプで伝わるし、お礼もお詫びも、さまざまな感情や心境が、アイコン1つで伝わる。でも僕や佐保さんはあくまでも内に秘めた感情を言語化して、それを強調、増幅させるっていう活動をしてるわけですよ!!!!!!!!!! だから僕らはアンチスタンプだしアンチ絵文字っていうスタンス……ですよね?
佐保 はい(笑)。
宇川 佐保さんは普段スタンプを使わない?
佐保 友達とLINEするとき、たまに使うんですけど、LINEでもTwitterのノリでうっかりビックリマークを送りたくなっちゃうんです。周りは私がTwitterでビックリマークをいっぱい使ってるのを知ってるじゃないですか。だからその環境では、ちょっぴり恥ずかしくなっちゃって。
宇川 すごいわかる。感情を押し殺して、絵文字に代弁してもらってるような無味乾燥な対話になるのがいやだっていうことでしょ!?
佐保 そうですね。私の場合、Twitterでは自分が思ったことを一方的に発信してるんですけど……。
宇川 基本的に一切リプライしないスタイルですもんね(笑)。
佐保 そうなんです(笑)。でもLINEでは相手とのやりとりが生まれるから、どうしても温度差が出てきてしまって。本当はビックリマークを付けて送りたいんですけど、けっこう抑えちゃったりしてますね。
宇川 メンバーで絵文字だけで対話する場合もあるんですか?
佐保 全然あります。
宇川 温度差ありまくりですよね。こっちは「くるぞくるぞ!!!!!」って高揚しているのに絵文字1個だけ返されるっていう(笑)。
佐保 あはは。そうなんですよ。
宇川 僕は90年代はグラフィックデザイナーを生業としていました。当時はDTP革命が起こった頃だったので、「アイコンが雄弁に語る」と言われていた時代でした。それが、SNSの普及によって2010年前後から、批評性を伴った「言葉の時代」が再度到来したわけだけど、もともと言葉の人でもあったので、それなりになじめた。そして今度はLINEの登場によって時代は一気にまたグラフィックアイコンの方向に向かっていて。にもかかわらず佐保さんはあえて絵文字を使わず、感嘆符というエフェクターを通じてジミヘン的に自分の内面を表現してる。その姿勢は本当にカッコいいと思うし、そんな佐保さんの内なる感情の機微をいかに表現するかが今回のプロジェクトの重要なテーマで。その幅や奥行きを表現するという意味でも100パターン作るというのはすごく意味のあることだったと思うんです。
まさか自分がビックリマークになれるとは
──制作を進めるうえで、宇川さんがこだわったポイントはどういうところだったんですか?
宇川 デザインに関して言うと、佐保さんを感嘆符化するためには顔と体をどうしても離さなきゃいけないわけじゃないですか。言ってみれば逆さ磔の首チョンパです!!!!!!!!!!!!(笑)それがグロテスクな感じに映っちゃったらダメだなと思って。で、しばらく考察していたんですが、あるとき、モンティ・パイソン的なコミカルな方法論があるっていうことに気が付いたんですよ。顔の大きさをちょっと大きくすることによって、スプラッタなイメージを払拭できるんじゃないかと。つまりここでも強調の手法が使えましたね。あと個人的に大きなヒントになったのは点取り占い。僕が子供の頃、駄菓子屋とかで売ってた子供向けのシュールなおみくじのようなものなんだけど(図版を見せる)。
佐保 なんですか、これ!!!!! 面白い(笑)。
宇川 書いてあることが謎すぎるの(笑)。このシュールかつ不条理なテイストが佐保さんのつぶやきに近いなと。またそのつぶやきを、いかに彼女が実際に心の中で言っているように見せられるかっていうのも重要なポイントで。なので、要するに点取り占いのグラフィックで描かれているようなことを、佐保さんの表情で表現するということですね。だから百面相をセレクトするのも、めちゃくちゃこだわりました。
──いざ100パターンを作り終えていかがですか?
宇川 何かを成就したような気持でいっぱいです。なんらかのカルマを落とせたんじゃないかって思っていますよ(笑)。もちろん大変楽しくやらせてもらったんですけど、ちょっと修行っぽいっていうか、アシスタントにもお願いせずに1人で黙々と作業を続けていくうちに、同じ感嘆符使いとして、自分自身を見つめ直すよい機会になったとも感じています。最後は、徐々に無の境地に近づいて行って……つまり佐保さんの発したつぶやきの断片とその増幅をイタコのように自分に憑依させるそんな瞑想行為。それをお盆休みをすべて潰してやっていました(笑)。霊を祀り、鎮魂、哀悼するお盆の時期に、まだ会ったこともない佐保さんの感情にチャネリングするっていう貴重な体験をさせてもらって(笑)。
──そういえば、「対談まであえて会わないようにしたい」とおっしゃってましたね。
宇川 そう。撮影に関しては仕事でロンドンにいた時期と重なっていたので、ディティールの指示だけをさせていただきましたが、本当に“あえて会わなかった”。デザインする前に会っちゃったら、必ず対話を交わすので、彼女のつぶやきと純粋に向き合えなくなっちゃうような気がして。会ったことがないからこそ自由にイメージを飛躍させることができるし、純粋に受け手として、フォロワーと同じ目線で、佐保さんの感情に浸ることができるんじゃないかと思ったんですよ。なので、このプロジェクトを通じて、一方的な精神的調和を見出したのも事実です!!!!!!!!
──佐保さんは完成したデザインをご覧になっていかがですか?
佐保 感動しました!!!!! まさか自分がビックリマークになれるとは思わなかったので!!!!!
宇川 普通思わないですよね!!!!!!!(笑) ちなみにメンバーカラーが黄色だっていうことで、黄色に関してはいろいろ意識してます。パイナップルに関するつぶやきは、Tシャツのボディを黄色にしたり。
佐保 ありがとうございます。
宇川 ところでメンバーカラーは自分で黄色を選んだんですか?
佐保 はい。メンバーカラーを決める抽選企画みたいなものがあって、黄色、緑、オレンジの中から選びました。
宇川 なぜそこで緑でもオレンジでもなく黄色を?
佐保 なんでだろう……特に黄色が好きってわけじゃなかったんですけど。でも、メンバーカラーになってから好きになりました!!!!!
宇川 黄色っていうのは感嘆符的にもすごく重要な色なんですよ。信号でも黄色は注意を促す色ですよね。道路標識のピクトグラムも黄色と黒のコントラストです!!!!!!! まさに「やばいやばいやばいくるぞくるぞくるぞ〜〜」っていう警告色の1つが黄色なんです。だから感嘆符使いとして黄色を選んだのは大正解!!!!!!!!!!
佐保 黄色を選んでよかったです!!!!!
宇川 赤とか青じゃ意味合いが違ってきちゃうから。黄色でよかった。ちょっと奇跡的だと思わないですか!?!?!?!?!?
佐保 そうですね。いろんな偶然が重なって。
──そして今回のコラボに至るという。
宇川 めちゃくちゃヤバい巡り合わせですね。
──ちなみに宇川さんがアイドルのグッズを手がけられたのは今回が初めてですか?
宇川 90年代に制服向上委員会というグループの書籍の表紙をデザインしたことはあったけど、ここまで本格的にコラボレーションしたのは、たぶん今回が初めてです。現代は握手券のチケット代わりにCDが売られていて、特典商法的ではありますが、パッケージビジネスをアイドルが支えているという現実がありますよね。それはそれで長らく音楽産業に携わる身として僕は否定はしないけど、今回作った100枚のTシャツはそのような方法とは、まったく意味合いが違うんですよ!!!!!!! だって1枚1枚全部違うから。そもそも1アーティストで100パターンってアイドルのグッズではなかなか、ありえないと思うし。
──前代未聞だと思います(笑)。
宇川 アイドルに限らず、薄利多売に大量消費させていく傾向に陥ったら、同じく購入者に対しての愛も薄まったりする方向に向かいがちですが、ここには疑いなく愛があると思うんです(笑)。この100枚の中には結果的に売れなかったデザインも存在するかもしれない。でもそれでいいのです。「100EXCLAMATIONS!」のコンセプトに趣を添えてくれ、風情を賑わしてくれる、その1枚があってこその100枚ですから。佐保さんとファンの皆さんの関係性っていうのも、さまざまな形の愛で結ばれてると思います。その人たちがどんなつぶやきやどんな表情を選び取るかということに僕は興味があります。四十路のおっさんが、柄にもなく愛なんていう言葉をこのプロジェクトに打ち出したい理由は、デザイナーとアーティストだけの関係ではなく、むしろこのプロジェクトを見守ってくれている佐保さん推しのファンの皆さんにこそ、参加してもらいたいという気持ちがあるからなんですよ。
佐保 いいですね!!!!!!!!!!!!!
宇川 このTシャツ着てる人々が100人並んでるところをぜひ武道館で見てみたいですよね!?!?!?!?!?
佐保 はい。それ絶対見たいです!!!!!!!!!!!!