──まずは川村さんにとって初の小説となる原作について、執筆のきっかけを教えてください。
「悪人」という映画を作ったときに、原作者の吉田修一さんに脚本を書いてもらったことが、小説にできることと映画にできることの違いについて考える大きなきっかけになったんです。だから、普段作っている映画では絶対にできないことを小説にしてみようと思って書き始めました。例えば、映像では“世界から猫が消えた”っていう状態を表現するだけでもすごく難しいんですよ。でも、小説では文章で書いたことを読者が想像してくれるんです。
──“死”や“家族”というテーマが物語の大きな軸になっていますが、このようなストーリーになった理由はありますか?
僕のベースとなる哲学っていうか、死生観みたいなものを書いてみたいと思ったんです。僕はものすごくネガティブな人間だから、毎日自分の葬式を想像して生きてるんですよ。例えば葬式が開かれたときに、仕事で会っていたとしても正直「行くかどうか悩む」という人はもちろんいるわけで。それって、結局自分にとってはどうでもいい人なんですよね。10年間会ってなかったとしても、葬式に来て泣いてくれる人が本当に大事な人だったりする。毎日生きてると、そういうことがわからなくなっていくんです。だから“死”っていう装置を使って、生きていることの意味とか、大事なことの優先順位を考える物語を作りたくなったんです。
──映画化されることは想定していなかったんですよね?
映画にならないものを書いたと思っていたので、映画化の話が来たときはすごく悩みました。でも「何かが消えると、関連する人間関係も消えていく」っていう映画オリジナルの設定だったり、原作に出てくるアルゼンチンのイグアスの滝で実際にロケができるっていうことだったり、信頼できる俳優の佐藤健と宮﨑あおいが出てくれるということで、映画なりの魅力が生まれるなと思って。面白いですよね、普段映画を作っている人間が“映画にならないこと”を書いたけど、それを一生懸命映画化したことで、映画独自のクリエイティブが生まれたんです。しかもそこがこの映画を魅力的にしている。
──ストーリーのうえで一番重要な存在に“猫”を選んだのはなぜでしょうか? 極端な話、「世界から犬が消えたなら」というタイトルになる可能性はなかったのでしょうか。
猫って動物としてかわいいだけじゃなく、捉えどころがないところが魅力だと思うんです。例えば犬はだいたい何を考えてるのかがわかるけど、猫はそれがわからないときが多い。そういう部分が面白いなと思って。このタイトルって、本当は「世界から“僕”が消えたなら」が正解で、要は「自分が死んだらどうなるか?」っていう話なんです。ただ、それだとみんな「困っちゃうよね」っていう同じ答えになるんですよ。でも「猫が消えたなら」って考えると、ものすごく困る人もいるし、猫アレルギーの人は助かるかもしれないし、どうでもいいと思う人もいっぱいいると思う。そういう、読む人によって答えがバラバラになるような、存在のあいまいさがよかったんです。……そうしたら数年前に空前の猫ブームが来まして。「狙ってたでしょ?」って言われることもあるんだけど、4年前に書いたときには、さすがにここまでブームになるとは思いませんでしたよ(笑)。
──今回この小説とコラボした「ごろごろにゃんすけ」について聞かせてください。もともと川村さんがこのキャラクターをお好きだったんですよね?
たまたま僕の友達が、LINEで「ごろごろにゃんすけ」のスタンプを送ってきたんですよ。このキャラクターって、なんて言うか、いい意味でマヌケなんですよね。
──気の抜けたところがありますね。
その雰囲気が、小説の中のキャベツっていうしゃべる猫と合っていたので。キャベツをイラストにするならこんな感じかな?って、このユーモアセンスにピンと来たんです。それでイラストレーターの村里つむぎさんにお願いしたら、LINEスタンプを作ってもらえることになったのがコラボのはじまりです。
──ナタリーストアのオリジナルグッズはいかがでしょう?
とてもかわいいですよね。お皿の中の絵で、猫が魚を持っているなんて、ユーモアセンスが生きてると思います。デザイナーの酒井景都さんとは試写会のあとにお会いしたんですけど、映画を観て「デザインをもう1回やり直します!」って言ってくれたんですよ。例えば猫が消える意味とか、映画で感じたものを汲み取って作ってくれたから、丁寧なコラボレーションになってうれしいです。
プロフィール
1979年生まれ、神奈川県出身。映画プロデューサーとして「電車男」「告白」「悪人」「モテキ」「おおかみこどもの雨と雪」「寄生獣」「バケモノの子」「バクマン。」などを製作。2010年、米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、2011年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。2012年に発表した初の小説「世界から猫が消えたなら」は本屋大賞へノミネートされ、120万部突破のベストセラーとなる。「ティニー ふうせんいぬのものがたり」や、ロバート・コンドウと堤大介によるアニメ映画化が決定した「ムーム」といった絵本も手がけている。著書に「仕事。」や小説第2作「億男」があり、2016年4月には「理系に学ぶ。」「超企画会議」が発売された。
メールやLINEなど、メッセージのやりとりで私たちは気持ちを伝え合っています。
愛を発信する側と受け取る側の気持ちや、そのやりとりをキャベツとレタスで表現しました。
恋人同士、親子同士でお揃いにしても、“繋がり”をいつもより実感できていいかもしれません。